架空送電線工事業界の客観的データとラインマンの使命

我々 架空送電線工事に携わる者の使命は「電力の安定供給」であります。
しかしながら、今回の鉄塔崩壊事故により、
電力の供給支障を引き起こしてしまっている事実があります。

そんな今だからこそ私は、
いつもの日常の背景に潜む大きなリスクの存在を
社会の皆様に正しく認識する視点を
持っていただく必要があるのではないかと強く感じています。

弊社が主たる事業としている架空送電線工事業界では
全国に送電用鉄塔の基数は約25万基、
電線の総亘長は約9万キロの設備が存在しています。

電力用鉄塔基数・送電線の亘長

高さ100mを越える鉄塔上で電力の安定供給という
社会的使命を担う専門技術者のことを
我々は「ラインマン」と称していますが、
全国の「ラインマン」の総数は約5,000人。単純計算すると
鉄塔 約50基および電線亘長 約18kmを1人で担う計算です。

さらに今後数年で多くのベテラン技術者が業界を去り
その深刻さは増していきます。

グラフ

限界に近づいているのは人材だけではありません。
約25万基のうち約3万基の鉄塔は
建設から既に50年以上が経過している状況です。

これが、今まさに電力の供給支障の発生に関して
ニュースで大きく報道されている
架空送電線工事業界の客観的データなのです。

大型の台風が鉄塔を崩壊させてしまい、
広い地域で電力の供給支障を発生させている今、
この客観的データを皆さまはどの様に捉えられたでしょうか。

「もっと多くの人員でいち早く復旧して欲しい」
「社会インフラを担うべき電力会社がどうして将来を見据え、
技術者の育成や設備増強投資をしてこなかったのか」
「高度な技術者を育成して、今後の電力の安定供給を担うべきだ」
といった見解が大半を占めるのではないでしょうか。

しかし災害発生前を振り返ってください。
発送電分離や電力の自由化の流れがあるのだから
「より安く」「より快適な」社会を享受し続けられる様にすべきだ。
という見解が一般的だったのではないでしょうか。

それが電力の供給支障状態が発生した途端に
世論の見解が一変してしまう。
果たして、この一方的かつ朝令暮改的な理想論は
今後も成り立つのでしょうか。

私は中長期的視点で将来を見据え、
そこに存在する大きなリスクを正しく認識し、
その対策を進めなければならない時に来ていると
強く感じています。

「誰かが何とかするのだろう」ではなく、
「公正公平な客観的見地に立った中長期的視点で」
行政はもちろん、国民ひとり一人が他人事ではなく、
自分事として考え、声に出して行動に移し、
得られる価値に対する適正な負担も
負っていく必要があると思うのです。

何事も残されたタイムリミットは短く、
そのタイムリミットを越えれば、
我々は取り返しの付かない現実を
目の当たりにする可能性も秘めていると
認識する必要があると強く感じています。

我々は今こそ、客観的に物事の本質を見極め、
ひとり一人が主体者として考え、行動し始めることが
必要なのではないでしょうか。

今 まさに我々の仲間である「ラインマン」が
その使命である「電力の安定供給」を
一刻も早く回復するため戦ってくれています。

そんな仲間への応援メッセージとして
投稿させていただきました。

中部電気工業(株) 代表取締役 谷 真孝