日々いつもの日常を送りつづけられている我々は、その背景に潜む大きなリスクの存在を正しく認識する視点をもつ必要があるのではないかと昨今強く感じている。弊社が主たる事業としている架空送電線工事業界を一例に取り上げてみたい。
全国に建設されている送電用鉄塔の基数は約25万基、電線の総亘長は約9万キロといわれている。高さ100mを越える鉄塔上で電力の安定供給という社会的使命を担う専門技術者のことを我々は「ラインマン」と称している。全国の「ラインマン」の総数は約5,500人。単純計算すると鉄塔 約45基および電線亘長 約16kmを1人で担う必要がある。さらに今後数年で多くのベテラン技術者が業界を去りよりその深刻さは増す。
限界に近づいているのは人材だけではない。約25万基のうち約3万基の鉄塔は建設から既に50年以上が経過している。既存設備の改修や建替えはインフラを運用しながらの作業が必要であるため、求められる技術は新設工事より高度なものとなる。さらに本来その高度な技術を担うべき30代~40代の中堅技術者の人員も経験値も業界が長く低迷した時代の影響を受け、大きく不足している。
これが社会インフラの根幹を支える電力業界の客観的データである。この現実を知った今、読者の皆様はどの様な印象を持たれただろうか。
「社会インフラを担うべき電力会社がどうして将来を見据え、技術者の育成をしてこなかったのか」
「高度な技術者を育成して、今後の電力の安定供給を担うべきだ」
加えて、「発送電分離や電力の自由化の流れがあるのだから『より安く』『より快適な』社会を享受し続けられる様にすべきだ」
と考えられるのが一般的なのではないか。
果たして、この一方的な理想論は今後も成り立つのであろうか。このまま対策を講じず進めば、「普段の日常がなくなる」という大きなリスクが存在している事を正しく認識し、その対策を進めならない時期なのではないだろうか。「誰かが何とかするのだろう」ではなく、「公正公平な客観的見地に立った中長期的視点で」行政はもちろん、国民ひとり一人が他人事ではなく、自分事として考え、声に出して行動に移し、得られる価値に対する適正な負担も負っていく必要があると思う。
残されたタイムリミットは短く、そのタイムリミットを越えれば我々は取り返しの付かない現実を目の当たりにする可能性も秘めている。
我々は今こそ、客観的に物事の本質を見極め、ひとり一人が主体者として考え、行動し始めることが必要なのではないだろうか。
代表取締役 谷真孝